病気を理由に退職勧奨を受けたときは、すぐに同意せず、まずは状況を整理することが大切です。
病気を理由に退職勧奨(会社から退職を勧められること)を受けた方は、体調への不安がある中で、会社からの提案にどう応じるべきか迷う場面が多いものです。この記事では、退職を検討する際の手順や、判断の目安となる確認事項、困ったときの相談先について解説します。
- 退職勧奨はあくまで会社からの提案であり、本人が拒否することも可能です。
- 体調や今後の生活への影響を考えるために、まずは医師の診断や制度の確認が必要です。
- 会社から提示された条件が、自身の希望や権利と合っているかを慎重に判断します。

病気を理由に退職勧奨を受けたときの対応の流れ
病気を理由に退職を勧められた際、まずは会社からの提案内容を正確に把握しましょう。
退職勧奨はあくまで会社側からの「お願い」であり、即座に承諾する義務はありません。

ただし、会社側が提示する条件や期限には注意が必要です。
- 会社からの提案内容を詳細に確認する
「いつまでに」「どのような条件で」退職を求めているのかを整理します。
退職金の加算や、有給休暇の消化、引き継ぎ期間の有無なども確認しましょう。
口頭での説明だけでなく、後々のトラブルを防ぐため書面での提示を求めるのが有効です。 - 医師の診断内容に基づき、就労の可否を判断する
現在の病状や、今後の就労が可能かどうかについて、主治医の意見を確認します。
診断書には、具体的な制限事項や、休職が必要な期間が記載されることもあります。
医師の判断は、休職制度の利用や、復職に向けた調整において重要な根拠となります。 - 会社とのやり取りを記録として残す
退職勧奨を受けた日時、場所、担当者名、具体的な発言内容をメモに残してください。
録音ができる状況であれば、やり取りの記録として残しておくことも検討しましょう。
ただし、無理な録音は体調を崩す原因にもなるため、慎重に行う必要があります。 - 専門機関へ相談し、今後の進め方を検討する
退職に応じるか、あるいは継続して働きたいかを判断するために、専門家の意見を聞きます。
労働局の総合労働相談コーナーなどは、会社との話し合いの進め方について助言を得られます。
なお、報酬を得て法律事件の交渉を代理できるのは、原則として弁護士等です(弁護士法第72条)。 - 退職後の生活保障と手続きを確認する
退職を決めた場合は、離職票の交付や、傷病手当金などの給付について確認します。
傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の病気等で働けず、連続3日の待期後も休み、給与がないか給付額未満の場合に支給されます。
失業保険の受給要件や、受給開始時期については、管轄のハローワークが判断します。
退職の手続きを進める際は、会社から提示された離職理由が、自身の状況と合致しているかも確認してください。
自己都合退職か会社都合退職かによって、その後の給付内容が変わる場合があります。
まずは冷静に、ご自身の権利と体調を最優先に考えて判断を進めましょう。
退職の意思を示すタイミングと期限
退職勧奨を受けた際、いつまでに返答すべきかは雇用契約の内容によって異なります。会社から提示された期限が、法律上のルールと合っているかを確認しましょう。

民法では、雇用の期間を定めていない場合、解約の申入れから一定の期間が経過することで雇用が終了すると定められています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
引用:民法 第627条第1項(e-Gov法令検索)
会社から「明日までに決めてください」と急かされても、法律上のルールを無視して直ちに同意する必要はありません。ただし、就業規則に別途定めがある場合もあります。
| 雇用契約の種類 | 退職の成立時期 | 備考 |
|---|---|---|
| 期間の定めがない契約 | 解約の申入れから2週間を経過したとき | 民法第627条第1項に基づく |
| 期間で報酬を定めた契約 | 次期以後 | 民法第627条第2項に基づく |
(もとにした一次情報:民法)
期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
引用:民法 第627条第2項(e-Gov法令検索)
参考:民法 第627条第2項(e-Gov法令検索)|e-Gov法令検索
会社から提示される期限は、あくまで会社側の都合である場合が多いです。会社が定める退職のルールと、法律のルールが異なる場合があるため、注意が必要です。
もし、提示された期限が短すぎて判断が難しいときは、その理由を伝えてください。体調を考慮し、検討のための猶予を求めることが一つの方法です。
退職の意思を伝える際は、退職日だけでなく、離職票の提出期限や傷病手当金の申請手続きについても、あらかじめ確認しておくとスムーズです。
また、退職の合意内容を記録に残すことも重要です。口頭でのやり取りだけでなく、いつ、どのような条件で合意したのかを、書面やメールで確認しておきましょう。
退職後の生活設計を立てるために、退職金や有給休暇の消化、社会保険の切り替え時期についても、会社側の担当部署へ早めに問い合わせておくと安心です。
今の状況と次に確認すべきこと
退職の検討を進めるには、ご自身の現在の立場を整理することが大切です。立場によって、受けられる給付や、守られるルールが異なるためです。

まずは、以下の表でご自身の状況がどこに当てはまるかを確認してください。
| 今の立場 | 主な扱い | 次に見るところ |
|---|---|---|
| 正社員 | 雇用契約に基づき働く | 退職時の条件や解雇のルール |
| 契約社員 | 期間の定めがある | 契約更新の有無や更新拒絶のルール |
| パート・アルバイト | 雇用契約に基づき働く | 労働条件通知書の内容 |
| 休職中で在籍している人 | 雇用関係は継続中 | 会社の休職規定や傷病手当金 |
| 退職して任意継続を選んだ人 | 健康保険の資格を継続 | 保険料の支払い方法 |
| 退職して国民健康保険に入った人 | 市区町村の保険に加入 | 保険料の算定方法 |
| 家族の扶養に入った人 | 家族の被扶養者となる | 扶養認定の条件 |
| 産前産後・育児休業の人 | 休業期間中の保障 | 休業中の社会保険料の扱い |
表の項目は一例です。ご自身の状況がこれらに当てはまらない場合でも、まずは現在の契約内容や、加入している保険の種類を確認してください。
例えば、休職中の場合は、就業規則に定められた「休職期間」や「復職の条件」をあらかじめ把握しておく必要があります。ただし、会社独自の規定があるため、必ず手元の書類を確認しましょう。
また、退職後の生活設計を立てる際は、失業保険の受給要件や、健康保険の切り替え手続きについても、あわせて整理しておくとスムーズです。
もし、会社とのやり取りにおいて、法的な判断が必要な場面が生じた場合は、弁護士へ相談してください。ここでは、弁護士でなければ扱えない用件を仕分けることはできません。
具体的には、不当な解雇の有無や、退職勧奨の強要といった、権利の侵害に関する争いなどが挙げられます。こうした事案は、専門的な法的知識を要します。
また、社会保険の手続きや給付に関する具体的な事務については、社会保険労務士の範囲となります。保険料の計算や、各種申請の代行などが主な業務です。
ただし、会社との直接の代理交渉は原則として弁護士へ、あっせん等の代理は特定社会保険労務士にも相談できます。窓口によって対応できる範囲が明確に分かれています。
退職勧奨への対応で確認する具体的な内容
会社とのやり取りにおいて、誰に相談するか
会社との話し合いがスムーズに進まない場合、相談先を分ける必要があります。
相談できる内容は、その用件が誰の権限に含まれるかによって決まります。

会社との条件交渉が必要な場合は、弁護士へ相談してください。
退職代行などの民間業者は、会社との交渉を行う権限がありません(弁護士法第72条)。
社会保険の手続きや、給付に関する事務的な相談は、社会保険労務士の範囲となります。
社会保険労務士でない者が、報酬を得てこれらの事務を行うことは禁止されています(社会保険労務士法第27条)。
労働条件や解雇のルールについて、行政の窓口で確認したいときは、労働局やハローワークへ相談できます。
具体的な判断は、管轄の窓口が行います。
ご自身の状況によって、確認すべきポイント
退職勧奨への対応は、ご自身が「在籍しているか」または「すでに退職したか」によって、確認する内容が変わります。
まずは、現在の状況がどちらに該当するかを確認してください。
会社に在籍したまま、病気による休職や退職を検討している場合です。
この場合は、会社の就業規則にある休職制度や、傷病手当金の受給条件を確認する必要があります。
すでに退職が決まっており、退職後の生活を整えようとしている場合です。
この場合は、健康保険をどのように継続するか、失業保険の手続きをどう進めるかを確認します。
どちらの状況であっても、会社から提示された条件が、ご自身の希望や法律のルールと合っているかを整理することが大切です。
次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。 一 第二十七条(第三十条の二十一において準用する場合を含む。)の規定に違反した者 二 第二十八条(第三十条の二十一において準用する場合を含む。)の規定に違反した者 三 第七十二条の規定に違反した者 四 第七十三条の規定に違反した者
引用:弁護士法 第77条(e-Gov法令検索)
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。
引用:社会保険労務士法 第27条(e-Gov法令検索)
会社との話し合いがうまくいかないときの相談先
退職代行業者に頼めば、会社との条件交渉を任せられますか
弁護士や労働組合ではない一般の退職代行業者は、退職条件について法的な交渉を代理できません。
退職代行は、本人の意思を伝えるためのサービスです。
条件交渉が必要な場合は、弁護士へ相談してください。
会社から提示された退職条件が妥当かどうか、相談できる場所はありますか
はい、労働局の総合労働相談コーナーなどで相談できます。
労働局は、労働問題に関する相談を受け付けている公的な窓口です。
ただし、労働局が会社に対して、提示された条件を強制的に変更させる権限を持っているわけではありません。
病気を理由に辞めるよう言われた場合、ハローワークで相談できますか
はい、ハローワークで相談できます。
ハローワークは、失業保険の手続きや求職活動を支援する機関です。
病気による離職が「特定理由離職者」に該当するかどうかも確認しましょう。
会社との話し合いがまとまらないとき、すぐに裁判を起こせますか
いいえ、裁判を起こすには、法的な手続きが必要です。
裁判は、最終的な解決手段の一つです。
まずは、労働局などの相談窓口を利用して、状況を整理することから始めるのが一般的です。
トラブルの性質によって、相談先の役割は大きく異なります。
解決したい内容に合わせて、適切な窓口を選びましょう。
退職金の増額や解雇の無効といった、法的な争いが必要な場合は弁護士が適しています。
ただし、弁護士への相談には費用が発生する場合があるため、事前に確認が必要です。
労働基準監督署は、未払い賃金や残業代など、法令違反の有無を調査する機関です。
個別の退職条件を調整する場所ではない点に注意してください。
労働局の総合労働相談コーナーでは、助言や紛争解決の援助を受けられる場合があります。
解決に向けた「あっせん」という手続きを利用できるケースもあります。
なお、社会保険労務士は、労働条件の調整や社会保険の手続きに関する専門家です。
ただし、特定社会保険労務士は、あっせん・調停等の紛争解決手続について代理できます。
まとめ
病気を理由に退職を勧められた際は、冷静に状況を整理することが重要です。会社からの提案をそのまま受け入れる前に、まずは提示された条件を正確に把握しましょう。
検討を進めるにあたって、以下のポイントを改めて確認してください。
- 会社が提示した退職の期限や、具体的な退職条件の内容
- 雇用契約に基づいた権利や、法律上のルールとの整合性
- 現在の雇用形態や状況によって異なる、守られるべきルールや給付制度
- 条件交渉が必要な場合の弁護士への相談や、ハローワーク等の窓口利用
ただし、会社との話し合いが困難な場合や、個別の事情により判断が難しいケースもあります。その際は、一人で抱え込まずに専門機関へ相談することをおすすめします。
制度の詳細は、状況や時期によって変更される可能性があります。手続きを行う際は、必ず最新の情報を確認するようにしてください。