会社が傷病手当金を嫌がる理由には、事務負担やコストへの懸念があります
病気やケガで働けなくなった被保険者が、生活を支えるために受け取るのが傷病手当金です。この記事では、会社が申請を渋る背景や、受給するために必要な待期期間、退職後の保険料に関する注意点を解説します。
- 会社には傷病手当金の支給を妨げる権限はありません
- 申請には医師の証明と会社による証明の両方が必要です
- 退職後も一定の条件を満たせば継続して受給できます

傷病手当金の手続きを進める5つの工程
傷病手当金(病気やけがで働けない期間に、健康保険から支給される手当)を受け取るための工程は、大きく分けて5つの段階があります。

1つ目は、医師の診察を受けて、仕事ができない状態であることを確認してもらうことです。申請では診断書ではなく、申請書の療養担当者記入欄に医師等の意見を受けます。
2つ目は、連続して3日間の待期期間を完了させることです。待期には土日祝などの公休日や有給休暇も含まれます。ただし、待期期間中に一部でも仕事に従事した場合は、新たに待期を開始する必要があります。
3つ目は、会社へ欠勤を連絡し、事業主の証明を含む申請書類を準備する段階です。会社には、申請書のうち「事業主記入欄」への記入を依頼する必要があります。
4つ目は、医師に申請書の「療養担当者記入欄」へ記入してもらい、本人または会社から保険者へ書類を提出する工程です。医師の記入漏れがあると、審査が遅れる原因となります。
5つ目は、保険者による審査を経て、指定の口座に手当が振り込まれる工程です。支給される額は、標準報酬月額の平均を30で割った額に3分の2を掛けた金額が目安となります。
なお、支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月間の範囲内です。2022年(令和4年)1月1日以降は、連続していなくても通算して計算される仕組みに変わっています。
退職後に継続して手当を受け取る「資格喪失後の継続給付」を検討する場合は、条件が異なります。この制度を利用するには、退職日までに、継続して1年以上の被保険者であったことが要件の一つです。
ただし、退職時にすでに傷病手当金を受けているか、あるいは受けることができる状態であることも条件となります。退職後の手続きについては、加入している健康保険組合へ早めに確認しましょう。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
手続きを忘れないための期限一覧
傷病手当金の申請や、退職後の保険の手続きには、それぞれ期限があります。期限を過ぎると、制度を利用できなくなる場合があるため、事前の確認が要ります。

| 手続きの内容 | 期限の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 傷病手当金の申請 | 支給対象となる期間の都度 | 本人から保険者へ直接提出できます |
| 任意継続への加入 | 退職日の翌日から数えて20日以内 | 健康保険法に基づきます |
| 失業保険の申請 | 離職した翌日から | 管轄のハローワークで確認してください |
傷病手当金の申請書は、事業主の証明を受けたうえで、本人から保険者へ直接提出できます。支給を受けるための書類には、医師の記入が必要な欄があるため、早めの準備が望ましいです。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
退職後に健康保険の「任意継続」を選ぶ場合は、退職日の翌日から数えて20日以内に申し込む必要があります。この期間を過ぎると、原則として加入できなくなります。
任意継続の申出期限は、20日目が土日・祝日の場合は翌営業日までとなります。また、郵送で手続きを行う際は、20日以内に書類が保険者に必着している必要があるため注意してください。
退職後に「国民健康保険」へ加入する場合は、資格取得日から14日以内に市区町村などへ届け出る必要があります。
失業保険(基本手当)の受給には、受給資格決定日から失業している日を通算した7日間の待期が必要です。 ただし、自己都合による離職の場合は、原則として1か月の給付制限がかかることがあります。
手続きのタイミングや詳細な条件については、お住まいの市区町村の役所や、管轄のハローワークで事前に確認してください。
会社が傷病手当金の申請を嫌がる理由
会社が申請に難色を示す理由の一つに、事務作業の負担があります。申請書には「事業主記入欄」があり、会社が欠勤事実などを証明しなければなりません。

担当部署は、本人の勤務状況や申請期間中に支払った賃金の内容などを証明します。書類作成や保険者への送付など、一定の手間が発生します。
また、社会保険料の負担も影響します。休職中で給与が発生しない期間も、会社と本人が保険料を折半して負担する仕組みは変わりません。
会社は、給与支払いが止まっている状態でも、本人負担分を給与から控除できないため、保険料の徴収方法を別途検討する必要があります。ただし、会社が全額を負担するわけではありません。
なお、傷病手当金の支給額は保険者が計算します。被保険者期間が12か月未満の場合、本人の標準報酬月額の平均額と320,000円のうち低い額を使います。
支給額は、標準報酬月額の平均を30で割った額に3分の2を掛けて算出されます。会社側は、こうした制度の運用や、休職に伴う人員配置の調整を考慮して、申請に対して慎重な姿勢を見せることがあります。
なお、傷病手当金は、連続して3日間の待期期間を経て、4日目から支給対象となります。支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。
退職後に継続して受給したい場合は、退職日までに続けて1年以上の被保険者期間が必要です。ただし、退職時にすでに受給できる状態であるなどの条件があります。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
| いまの立場 | 扱い | 次に見るところ |
|---|---|---|
| 正社員 | 被保険者 | 休職や傷病手当金 |
| 契約社員 | 被保険者 | 契約更新や傷病手当金 |
| パート・アルバイト | 条件を満たせば被保険者 | 加入条件や傷病手当金 |
| 休職中の在籍者 | 被保険者 | 保険料の支払い方法 |
| 退職して任意継続を選んだ人 | 任意継続被保険者 | 保険料の負担額 |
| 退職して国民健康保険に入った人 | 被保険者 | 保険料の支払い |
| 家族の扶養に入った人 | 被扶養者 | 扶養の条件 |
| 産前産後・育児休業の人 | 被保険者 | 休業中の保険料 |
(当サイトにて作成)
傷病手当金を受け取るための待期期間
傷病手当金を受け取るには、まず連続した休みが必要です。この期間を「待期期間」といいます。

待期期間の数え方や、支給される仕組みを正しく理解しておくことは、受給の条件に関わります。
連続して休む必要がある期間
支給の対象となるには、連続して 3日 の休みが必要です。この期間には、土日や祝日、有給休暇も含まれます。
4日目からが支給の対象となります。ただし、連続した休みが途切れてしまうと、待期期間はリセットされます。
例えば、3日間休んだ後に1日出勤し、再度休んだ場合は、改めて新たに待期期間のカウントが必要です。
待期期間のカウントは、医師の診断に基づき「労務に服することができない状態」が続くことが前提です。ただし、会社が定める休職規定により、独自の条件が設けられている場合もあります。
支給される金額と期間の目安
手当の支給内容は、以下の通りです。
- 支給額は、標準報酬日額の 3分の2 です
- 支給期間は、通算して 1年6か月 です
支給額は、標準報酬月額の平均を30で割った額に、支給割合を掛けて計算します。
なお、被保険者期間が12か月未満の場合、本人の平均額と 320,000円 のうち低い額を用います。
支給期間については、2022年(令和4年)1月1日から、支給開始日から通算して計算する方式に変更されています。ただし、途中で復職して一定の条件を満たせば、残りの期間を再度利用できる場合があります。
図は、手当がいつから、どのくらいの期間支給されるかの目安を示しています。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
申請にあたっては、医師による「療養のため休業する必要がある」旨の証明が不可欠です。本人または会社から健康保険組合や協会けんぽへ書類を提出できますが、書類の不備があると支給が遅れる可能性があります。
退職後の保険料を抑えるための上限額
退職後に健康保険の任意継続を選ぶ場合、支払う保険料の額は、退職前の給与額や住んでいる地域によって決まります。
ご自身の状況に合わせて、どちらの制度が負担を抑えられるかを確認することが大切です。
退職時の給与が高かった場合
退職時の標準報酬月額が高い人は、任意継続の保険料が一定の金額で止まることがあります。
健康保険法第47条第1項の規定により、任意継続の標準報酬月額には上限が設けられているためです。
- 任意継続被保険者の標準報酬月額の上限(協会けんぽ・令和8年度) 320,000円
参考:【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について|全国健康保険協会(協会けんぽ)
退職時の標準報酬月額がこの数値を超える人は、上限で頭打ちになるため、退職後のほうが保険料が安くなるケースが見られます。
ただし、この数値は毎年度見直されるため、事前の確認が要ります。
退職後の保険料率を確認する場合
任意継続は、会社が保険料を半分負担する仕組みではありません。本人が全額を負担するため、在籍中よりも負担が増える点に注意が必要です。
東京都に住んでいる場合、保険料の計算には以下の率が関わります。
- 任意継続の保険料率(協会けんぽ 東京支部・令和8年4月分から) 10.08%
参考:全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続被保険者の方の保険料額(令和8年4月分〜・東京支部)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
この率は、東京支部の健康保険料率と子ども・子育て支援金率の合計です。40歳から64歳までの人は、介護保険料率も加わります。
なお、任意継続ができる期間は原則として2年間です。ただし、他の健康保険に加入した場合などは、途中で資格を失うことがあります。
また、任意継続を希望する場合は、退職日の翌日から20日以内に申し出る必要があります。この期限を過ぎると手続きができないため注意してください。
参考:任意継続(任意継続の被保険者期間・保険料・保険給付)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
手続きがうまくいかないときの相談先
会社とのやり取りや、制度の利用について不安を感じる場面は少なくありません。
手続きがスムーズに進まないときは、一人で抱え込まずに、適切な窓口へ相談してください。
会社が傷病手当金の申請書類に記入してくれない場合はどうすればいいですか?
会社に対して、書類の記入を依頼できます。
申請書には、会社が休業の事実を証明する欄があるため、会社側の協力が必要です。
もし会社が正当な理由なく拒否を続ける場合は、加入している健康保険組合や協会けんぽへ相談してください。
退職後に国民健康保険に加入したら、傷病手当金はもらえなくなりますか?
いいえ、退職前に要件を満たしていれば、引き続き受給できることがあります。
退職前から継続して受給している場合、一定の条件を満たせば、退職後に国民健康保険へ加入しても、元の健康保険から給付が続く仕組みがあります。
詳細な条件は、加入している保険者へ確認してください。
会社とのトラブルについて、退職代行業者に相談しても大丈夫ですか?
弁護士ではない民間業者は交渉できませんが、労働組合には団体交渉権があります。
給付金の請求や、未払い賃金の回収などの交渉が必要な場合は、弁護士へ相談してください。
代行業者に依頼しても、法的な解決はできないため注意が必要です。
雇用保険の給付について、会社が手続きを止めてしまったらどうすればいいですか?
管轄のハローワークへ相談してください。
離職票などの書類が届かない場合、ハローワークから会社へ指導が入ることがあります。
手続きの進捗については、ハローワークの窓口で確認できます。
参考:ハローワークインターネットサービス|雇用保険の具体的な手続き | 厚生労働省|厚生労働省
まとめ
傷病手当金と退職後の手続きについて、重要なポイントを整理しました。
- 支給には連続した3日間の待期期間が必要です。
- 支給日額は、標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2が目安です。
- 支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。
- 退職後も、被保険者期間が1年以上あれば継続給付の可能性があります。
- 任意継続は、退職日の翌日から20日以内に申し込む必要があります。
ただし、継続給付には「資格喪失日の前日に受給できる状態であること」などの条件があります 。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
手続きの期限や詳細な条件については、加入している保険者へ必ず確認してください。
保険料率や支給額の上限などは、制度改正により変更される場合があります。
この記事の根拠(本文内24か所・台帳8項目・一次資料6件)
制度の数値(台帳から出しています)
- 傷病手当金の待期期間(連続して休む必要がある日数)3日時点:2026-07確認:2026-07-26全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 傷病手当金の支給割合(標準報酬日額に対する割合)3分の2時点:2026-07確認:2026-07-26全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 傷病手当金の支給期間(通算)1年6か月時点:2026-07確認:2026-07-26全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 資格喪失後の継続給付に必要な被保険者期間(退職日までに続けて)1年時点:2026-07確認:2026-07-27全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|資格喪失後の継続給付について
- 任意継続の申出期限(退職日の翌日から)20日以内時点:2026-08確認:2026-08-14全国健康保険協会(協会けんぽ)|任意継続被保険者制度
- 傷病手当金の計算に使う標準報酬月額の平均額(被保険者期間が12か月未満の場合の上限)320,000円時点:2026-07確認:2026-07-26全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 任意継続被保険者の標準報酬月額の上限(協会けんぽ・令和8年度)320,000円時点:令和8年度確認:2026-07-27全国健康保険協会(協会けんぽ)|【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について
- 任意継続の保険料率(協会けんぽ 東京支部・令和8年4月分から)10.08%時点:令和8年度(令和8年4月分から)確認:2026-07-27全国健康保険協会(協会けんぽ)|全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続被保険者の方の保険料額(令和8年4月分〜・東京支部)
一次資料
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|任意継続被保険者制度
- 厚生労働省|雇用保険の具体的な手続き
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続被保険者の方の保険料額(令和8年4月分〜・東京支部)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|任意継続(任意継続の被保険者期間・保険料・保険給付)
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