個人事業主と雇用保険の仕組み・手続き
個人事業主(自営業)の方は、原則として会社員のような雇用保険には加入できません。ただし、他の会社に雇用され、加入要件を満たす場合は、雇用保険の被保険者となることがあります。この記事では、制度の仕組みや離職後の手続きを解説します。
- 個人事業主は原則として雇用保険の被保険者にはなれません
- 他の会社に雇用されている場合は加入の対象になることがあります
- 離職後の給付手続きはハローワークで行います

個人事業主が雇用保険の仕組みを利用するまでの流れ
個人事業主として活動している方は、原則として雇用保険の対象にはなりません。雇用保険は、雇用されている労働者を支えるための保険だからです。

ただし、個人事業主であっても、他の会社に雇用されている場合は、その会社を通じて被保険者として加入していることがあります。この場合、会社を辞め、事業を営まず就職できる「失業」の状態であれば、給付を利用できる可能性があります。
雇用保険の給付を受けるための一般的な工程は、次の通りです。
- 雇用されていた会社から、離職票を受け取る
- 管轄のハローワークへ行き、離職票を提出して求職の申し込みをする
- ハローワークによる受給資格の判定を受ける
- 離職後の待期期間を過ごす
- 失業の状態が続いていることを確認し、基本手当の受給を開始する
手続きの際、離職票が手元に届かないケースや、会社側での手続きが遅れているケースがあります。その場合は、以前勤めていた会社へ状況を確認してください。
また、離職理由によって、給付が受けられるまでの期間や条件が異なる場合があります。自己都合による離職か、会社都合による離職かによって、給付制限の有無などが変わるためです。
受給の要件を満たしているか、いつから給付が始まるかは、管轄のハローワークが判断します。ご自身の状況が給付の対象になるかは、事前にハローワークへ確認することをおすすめします。
手続きの進め方や必要な書類については、お住まいの地域を管轄するハローワークの窓口で案内を受けることができます。窓口では、離職票のほか、本人確認書類やマイナンバーがわかるものが必要になる場合があります。
ただし、離職後の状況(就職活動の状況や、病気などで働けない状態など)によっては、手続きの進め方が変わることもあります。不明な点は、早めにハローワークへ相談しましょう。
なお、手続きの過程で、以下のような例外的な状況に直面する場合もあります。
一つ目は、離職理由に争いがある場合です。会社側が提示する離職理由と、本人の認識が異なる際は、ハローワークで事実関係を確認する必要があります。
二つ目は、病気やケガで、すぐに求職活動ができない場合です。このときは基本手当を受給できませんが、働けない状態が30日以上続く場合は、受給期間の延長を申請できます。
三つ目は、離職直後に別の仕事(アルバイトなど)を始めた場合です。就労状況によっては、受給資格の判定や給付の開始時期に影響が出る可能性があります。
四つ目は、離職票の紛失や、会社が倒産して連絡が取れない場合です。このときは、ハローワークへ相談して、代替となる書類や手続きの有無を確認してください。
五つ目は、雇用保険の加入期間が不足している場合です。離職前一定期間内に、被保険者期間が要件を満たしていないと、給付を受けられないことがあります。
ただし、個別の事情により判断が異なるケースがあるため、必ず窓口で詳細を確認してください。
手続きをいつまでに行うべきか
雇用保険の給付を受けるための手続きには、期限に関する注意点があります。会社側が行う手続きと、ご自身が行う手続きで、それぞれ確認すべき内容が異なります。

会社側が行う手続きは、資格喪失届と離職証明書を、資格喪失日の翌日から10日以内にハローワークへ提出することです。離職票が届かない場合でも、離職日の翌日から12日目以降は、ハローワークで仮の受給手続きをできる場合があります。
ご自身が行う手続きは、ハローワークでの求職の申し込みです。手続きのタイミングについては、以下の表にまとめています。
| 手続きの種類 | 行う人 | 時期の目安 |
|---|---|---|
| 離職票の作成・提出 | 会社 | 退職後、速やかに |
| 求職の申し込み | 本人 | 離職票が届き次第 |
本人から求められた場合の離職証明書の交付について、法令では次のように定められています。
事業主は、その雇用していた被保険者が離職したことにより被保険者でなくなつた場合において、その者が離職票の交付を請求するため離職証明書の交付を求めたときは、これをその者に交付しなければならない。ただし、第七条第一項の規定により離職証明書を提出した場合は、この限りでない。
引用:雇用保険法施行規則 第16条(e-Gov法令検索)
会社から離職票が届く時期は、会社側の事務処理状況によって変わることがあります。もし退職から時間が経過しても書類が届かない場合は、以前勤めていた会社へ状況を確認してください。
ただし、手続きの進め方には例外的なケースもあります。以下のような状況では、通常の流れとは異なる対応が必要になる場合があります。
- 会社が倒産し、離職票の発行が困難な場合
- 会社と連絡が取れず、書類の請求ができない場合
- 離職票が届いた後、病気や怪我などですぐに求職活動ができない場合
会社から書類が届かない場合は、管轄のハローワークへ相談してください。ハローワークが会社へ状況を確認し、手続きを進めるための案内をしてくれる場合があります。
また、離職票が届いた後でも、求職の申し込みを遅らせることは可能です。ただし、給付を受けられる期間には制限があるため、早めの手続きが推奨されます。
手続きに必要な持ち物は、離職票のほか、本人確認書類やマイナンバーがわかるもの、預金通帳などです。窓口へ行く前に、管轄のハローワークのウェブサイト等で詳細を確認しておくとスムーズです。
自営業向けの雇用保険制度と加入の手順
個人事業主として活動する方は、雇用保険の仕組みを利用できるケースがあります。
それは、会社に雇われている「アルバイト」や「パート」として働いている場合です。

会社から給与を受け取っている労働者であれば、要件を満たせば加入の対象になります。
一方で、会社に所属せず、自分自身で事業を行う形態では加入できません。
雇用保険への加入状況によって、退職後の扱いは次のように分かれます。
| 加入状況 | 退職後の主な制度 | 対象となる人 |
|---|---|---|
| 加入している | 雇用保険 | 会社に雇われている人 |
| 加入していない | なし | 完全に自営業のみの人 |
ただし、以下のケースでは、雇用保険の対象外となることがあります。
- 週の所定労働時間が規定に満たない場合
- 昼間学生として学校に通っている場合
- 雇用契約ではなく、業務委託契約で働いている場合
- 雇用主との間で労働者性が認められない場合
加入の可否や、現在の契約内容が対象になるかどうかは、管轄のハローワークが判断します。
ご自身の状況がどちらに該当するか、事前に確認が必要です。
もし、アルバイト等の雇用形態で働いているのに加入できていないと感じる場合は、
雇用主に対して加入手続きの有無を確認してください。
契約内容が「雇用契約」であることを前提として、加入の可否が決まります。
業務委託契約(フリーランス形式)で報酬を得ていても、働き方の実態から労働者と判断される場合は、雇用保険の被保険者になり得ます。さらに受給要件を満たして離職した場合は、基本手当を受けられる可能性があります。
また、学生の方についても注意が必要です。
昼間学生は原則として加入の対象外となりますが、
夜間学生や通信制の学生であれば、要件を満たすことで加入できる場合があります。
加入の手順については、原則として雇用主が窓口となるハローワークへ
手続きを行うことになります。
ただし、雇用保険マルチジョブホルダー制度では、労働者本人が加入の申出を行います。
自身の契約が「労働者」に該当するか迷ったときは、
契約書の内容を整理した上で、管轄のハローワークへ相談してください。
判断の基準は、実態としての指揮命令系統などが重視されます。
手続きがうまくいかないときの相談窓口
手続きを進める中で、書類の不備や判断の迷いが生じることがあります。状況によって、相談できる相手や窓口は異なります。

雇用保険の仕組みや給付について確認したい場合
雇用保険の受給要件や、離職票の扱いについて確認したいときは、管轄のハローワークへ相談できます。ハローワークは、雇用保険の運営を行う公的な機関です。
ご自身の加入状況や、離職理由による給付の違いなど、制度の具体的な判断はハローワークが行います。手続きの進め方について不明な点がある場合も、窓口で確認することが可能です。
ただし、ハローワークはあくまで制度の運用を行う窓口です。個別の雇用契約の内容や、会社との合意事項について直接介入することはできません。
離職理由の記載内容に疑問がある場合は、まず会社側に確認を行いましょう。会社側の説明と事実が異なる場合は、ハローワークへその旨を伝えて相談してください。
会社との間でトラブルが発生している場合
退職に伴う金品の返還について会社と意見が合わないときは、労働基準監督署へ相談できます。離職票が届かない場合は、管轄のハローワークへ相談してください。労働基準監督署は、労働基準法などの法令を守っているかを監督する機関です。
労働基準監督署は、法令違反の疑いがある場合に是正勧告などを行うことができます。ただし、会社との間で法的な交渉が必要な場合は、弁護士へ相談する必要があります。
労働基準監督署やハローワークは、個別のトラブルを解決するための交渉を行う権限はありません。あくまで法令遵守の観点からの指導や、制度上の確認が主な役割です。
未払いの賃金や退職金に関するトラブルは、労働基準監督署の窓口で相談可能です。一方で、損害賠償などの民事上の争いに発展した場合は、法テラスなどの専門機関を検討しましょう。
その他の相談先
労働問題全般について、より幅広く相談したい場合は、労働局の総合労働相談コーナーが利用できます。ここでは、解雇や雇止めなどのトラブルについて、助言や指導が行われます。
また、紛争を解決するための「あっせん」という手続きを利用できる場合もあります。ただし、あっせんは強制力を持たないため、会社側が応じないケースがある点に注意してください。
まずは、どのような問題が起きているのかを整理したうえで、適切な窓口へ連絡してください。状況を整理するために、契約書や給与明細などの証拠書類を準備しておくとスムーズです。
雇用保険に関するよくある勘違い
週の労働時間が20時間未満なら、雇用保険には加入できませんか。
原則として加入できませんが、65歳以上のマルチジョブホルダーには合算できる特例があります。ただし、各事業所で週5時間以上20時間未満かつ31日以上の雇用見込みがあることなどが条件です。
夜間や通信制の学生であっても、要件を満たせば加入できる場合があります。ただし、学生の場合は「昼間学生」に該当しないことが前提となります。
複数の会社でアルバイトをしている場合、労働時間は合算されますか。
原則として、雇用保険の加入判定は事業所ごとに行われます。複数の会社で働いていても、それぞれの会社での労働時間が基準を満たすかを確認します。
ただし、一定の年齢に達している方には、2つの事業所の労働時間を合算できる制度があります。具体的な条件は、管轄のハローワークへ確認してください。
離職理由によって、基本手当の待期期間は変わりますか。
いいえ、離職理由にかかわらず、待期期間は共通です。離職理由によって変わるのは、給付が制限される期間などの条件です。
自己都合による離職か、会社都合による離職かによって、給付を受けられるまでの期間や条件が異なります。具体的な判断は、ハローワークが行います。
会社と雇用保険の加入について揉めたときは、ハローワークに交渉してもらえますか。
いいえ、ハローワークには、会社との間で個別のトラブルを解決するための交渉を行う権限はありません。ハローワークは、制度の運営や加入の判断を行う機関です。
会社との間で法的な交渉が必要な場合は、弁護士へ相談する必要があります。ただし、法令違反の疑いがある場合は、労働基準監督署へ相談することも検討してください。
雇用保険の資格喪失手続きは、退職後すぐに自分で行えますか。
いいえ、雇用保険の資格喪失手続きは、原則として雇用主が行うものです。退職者が自分自身で直接、ハローワークへ申請することはできません。
ただし、会社が手続きを行わないなどの問題がある場合は、ハローワークへ相談してください。離職票が届かない場合も、まずは会社へ確認することが先決です。
参考:ハローワークインターネットサービス|雇用保険の具体的な手続き|厚生労働省
まとめ
雇用保険の仕組みについて、確認した内容をまとめます。
- 個人事業主として活動する形態では、雇用保険には加入できません。
- アルバイトやパートとして会社に雇われている場合は、要件を満たせば加入の対象になります。
- 離職理由にかかわらず、待期期間は共通です。ただし、自己都合による離職などは給付制限がかかる場合があります。
- 複数の会社で働く場合、原則は事業所ごとに判定されます。ただし、一定の条件を満たす65歳以上の方は合算できる制度があります。
- 雇用保険の加入判定や給付の可否については、管轄のハローワークへ相談してください。
手続きの進め方や、離職後の具体的な流れについては、退職の手続きの解説もあわせて参考にしてください。
ご自身の状況に合わせた詳細な判断については、必ずハローワークへ確認するようにしましょう。