傷病手当金と有給休暇を組み合わせて退職する場合の手順
病気などで働けない期間に、傷病手当金と有給休暇をどのように使い分けるべきか迷っている方へ。退職を考えている場合、有給休暇を先に消化してから退職日を迎えることで、傷病手当金の受給期間を延ばせる可能性があります。この記事では、退職までの具体的な流れと、手続きの期限について解説します。
- 有給休暇を先に使い切ることで、傷病手当金の支給開始を遅らせる方法があります
- 退職後の健康保険は、任意継続か国民健康保険かを選ぶ必要があります
- 傷病手当金の継続給付を受けるには、一定の被保険者期間が必要です

傷病手当金と有給休暇を組み合わせて退職するまでの流れ
病気やけがで働けない期間、傷病手当金(健康保険から支払われる生活保障のための給付)と有給休暇をどのように使うかは、退職後の生活に影響します。

まずは、手元にある有給休暇の残日数を確認することから始めます。有給休暇は原則として労働者が希望する時季に使えますが、事業の正常な運営を妨げる場合、会社は時季を変更できます。
以下の表は、法律で定められた年次有給休暇に関する基準をまとめたものです。
| 項目 | 日数 | 内容 |
|---|---|---|
| 通常の付与日数 | 20労働日 | 労働者への1回の付与上限 |
| 時季指定の対象 | 10労働日 | 時季指定義務の対象となる付与日数 |
| 時季指定の日数 | 5労働日 | 使用者が1年以内に取得させる日数 |
(もとにした一次情報:厚生労働省)
有給休暇を使い切るタイミングと、傷病手当金の受給開始時期を調整することが、退職までの一般的な流れです。
- 有給休暇の残日数と、傷病手当金の受給要件を確認します。
- 有給休暇を先に消化し、給与が出る期間を確保します。
- 有給休暇がなくなった後、傷病手当金の申請へ切り替えます。
- 資格喪失前に待期を完成させ、退職日も労務不能のため休みます。
- 退職後の保険について、任意継続などの選択肢を検討します。
有給休暇を使い切った後に傷病手当金を受け取る形にすると、退職後の生活を支えるための給付を長く続けられる場合があります。
ただし、傷病手当金は要件を満たせば受けられるものですが、退職後の継続給付については、退職前の加入期間などの条件が関わります。
傷病手当金の受給と退職のタイミングには、いくつかの注意すべきケースがあります。
まず、退職後に傷病手当金を継続して受け取るには、退職日までに「継続して1年以上」の被保険者期間が必要です。
次に、傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月となります。
また、傷病手当金の支給額は、標準報酬月額の平均を30で割った額に3分の2を掛けて算出されます。
さらに、傷病手当金の受給には、連続して3日の待期期間が必要です。ただし、待期期間には有給休暇も含まれます。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
最後に、退職後に任意継続被保険者になるには、退職日の翌日から20日以内に申し出る必要があります。ただし、期限を過ぎると選択できなくなります。
参考:【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について|全国健康保険協会(協会けんぽ)
退職に向けて確認しておくべき期限
退職までのスケジュールを立てる際は、有給休暇の消化と、傷病手当金の受給開始時期を整理する必要があります。
手続きの遅れは、給付を受けられない原因になるため、事前の確認が要ります。

| 確認事項 | 内容の目安 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 有給休暇の付与 | 継続勤務期間が 6か月 の場合 | 出勤率の要件を満たしているか |
| 傷病手当金の計算 | 標準報酬月額の平均額が 320,000円 の場合 | 支給開始日が年度替わりでないか |
| 退職後の手続き | 退職日の翌日から数日間 | 加入する保険の種類を決める |
(もとにした一次情報:厚生労働省)
有給休暇の付与については、雇入れの日から 6か月 勤務し、出勤率が8割以上であれば、最初の 10労働日 が発生します。
傷病手当金の支給開始日前の被保険者期間が12か月未満の場合は、本人の標準報酬月額の平均額と所定の全被保険者平均額の低い方を使います。
支給開始日が令和7年4月1日以降であれば、320,000円 がその基準となります。
退職後の健康保険については、退職日の翌日から手続きを行うことになります。
どの制度を利用するかによって保険料の負担額は変わりますが、傷病手当金の継続給付の可否は退職時の受給要件などで決まります。
退職後の手続きにおいて、特に注意すべき期限や条件の例外は以下の通りです。
まず、協会けんぽの任意継続被保険者になるには、退職日の翌日から 20日以内 に申し出る必要があります。
この期限を過ぎると、任意継続は選択できなくなるため、退職後にいちばん先に確かめるべき期限のひとつです。
次に、傷病手当金の継続給付を受けるための条件です。
退職日までに、継続して 1年 以上被保険者であったことが必要です。
ただし、退職時にすでに傷病手当金を受けているか、受けられる状態であることも条件となります。
また、有給休暇の時効についても留意が必要です。
有給休暇の請求権は、付与日から 2年 で時効となります。
ただし、未使用分は翌年度へ繰り越すことが可能です。
最後に、任意継続の保険料計算に関する例外です。
標準報酬月額が 320,000円 を超える場合、任意継続の標準報酬月額はこの上限が適用されます。
参考:【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について|全国健康保険協会(協会けんぽ)
有給休暇を使い切るための条件と仕組み
退職前に有給休暇を消化するには、まずご自身に休暇の権利があるかを確認しましょう。権利の発生には、継続勤務期間と出勤率の2つの要件を満たす必要があります。

入社して間もない場合
入社直後の場合は、まだ権利が発生していない可能性があります。法律では、雇入れの日から6か月継続勤務し、全労働日の80%以上出勤すると、最初の権利が発生します。
最初に付与される日数は、通常の労働者の場合10労働日です。ただし、週の所定労働時間が30時間未満かつ週の所定労働日数が4日以下の場合は、比例付与の対象となります。
すでに一定期間勤務している場合
継続して勤務している方は、残っている日数を退職日までに計画的に消化できます。有給休暇の請求権には時効があり、付与日から2年経過すると消滅するため注意が必要です。
未使用分は翌年度へ繰り越せますが、繰り越せるのは前年度分のみです。また、会社には年5労働日を確実に取得させる時季指定義務がありますが、これは本人の請求による取得分を含みます。
なお、時季指定義務の対象となるのは、法定付与日数が10労働日以上の労働者です。ただし、管理監督者や有期雇用労働者であっても、条件を満たせば対象に含まれます。
通常の労働者に対する1回の法定付与日数の上限は20労働日です。退職時に残日数が多い場合は、あらかじめ会社へ取得の意向を伝えておくとスムーズです。
有給休暇の消化と、傷病手当金の受給をどのように組み合わせるかは、退職後の生活設計に関わります。ご自身の状況に合わせて、どちらを優先するか検討してください。
傷病手当金を受け取り続けるための条件
傷病手当金を受け取るには、まず「待期」という期間を完了させる必要があります。連続して休んだ期間が 3日 を含み、4日目から支給が始まります。

この待期期間には、土日などの公休日や、有給休暇を使って休んだ日も含まれます。ただし、最初の待期が完成する前に出勤した場合は、改めて連続3日間の待期を完成させる必要があります。
| 項目 | 内容 | 備考 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 待期期間 | 3日 | 連続した日数 | 公休日を含む |
| 支給割合 | 3分の2 | 標準報酬日額に対し | 1円未満四捨五入 |
| 支給期間 | 1年6か月 | 通算での期間 | 2022年より通算方式 |
| 継続給付の要件 | 1年 | 退職日までの期間 | 任意継続等は除く |
支給額は、標準報酬月額の平均を30で割った額に、3分の2 を掛けて計算します。ただし、被保険者期間が12か月未満の場合、計算の基礎となる標準報酬月額に上限が設けられることがあります。
上限額は、320,000円 です。これは、当該年度の前年度9月30日時点における全被保険者の標準報酬月額の平均額に基づき、年度替わりで見直されます。
図は、支給が始まるタイミングや、受け取れる期間の仕組みを示しています。
退職後も継続して給付を受けるには、資格を失う前日までに、継続して 1年 以上、被保険者であったことが必要です。この期間には、任意継続被保険者や国民健康保険の期間は含まれません。
また、退職する時点で、現に傷病手当金を受けているか、あるいは受けることができる状態であることも条件の一つです。要件を満たせば、退職後も一定期間は給付が続くことがあります。
ただし、以下のようなケースでは、退職後の継続給付が受けられない場合があります。
- 退職日までに、継続して 1年 以上の被保険者期間を満たしていない場合
- 退職時に、待期完成後で療養のため労務不能という傷病手当金の受給要件を満たしていない場合
- 退職後にいったん労務可能となり、継続給付が終了した場合
- 退職時に、すでに傷病手当金の支給期間(通算 1年6か月)をすべて使い切っている場合
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
手続きがうまくいかないときの相談先
手続きを進める中で、不明な点や困ったことが生じる場合があります。
状況に応じて、相談できる窓口を使い分けてください。
会社とのやり取りで困っている場合
有給休暇の消化や退職の手続きについて、会社と意見が合わないときは、労働基準監督署などの公的な窓口に相談できます。
会社に対して、法律に基づいた権利の行使を求めるための情報が得られます。
有給休暇の権利については、以下の点も確認の材料になります。
- 付与日から2年で時効となります。ただし、未使用分は翌年度へ繰り越せます。
- 週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下の場合は、比例付与となります。
通常の労働者では、雇入れから6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すると10労働日が付与され、法定付与日数の上限は20労働日です。
ただし、労働条件によって付与される日数は異なります。
また、会社には年5労働日の時季指定義務がありますが、対象は10労働日以上の付与がある労働者です。
会社が指定する日数は、本人の請求分を含めて5労働日に達していればよいことになっています。
制度の仕組みや給付について困っている場合
傷病手当金や失業保険などの公的な制度について、受給できるかどうかの判断に迷ったときは、管轄の窓口へ相談してください。
健康保険に関する具体的な支給要件は、加入している保険者(健康保険組合や協会けんぽなど)が判断します。
傷病手当金の支給額は、標準報酬月額の平均を30で割った額に3分の2を掛けて算出されます。
支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。
ただし、支給開始にあたっては、連続して3日の待期期間を満たす必要があります。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
失業保険(基本手当)の受給については、ハローワークが窓口となります。
自己都合退職の場合、原則として1か月の給付制限期間があります。
参考:ハローワークインターネットサービス|雇用保険の具体的な手続き|厚生労働省
退職後の健康保険の選択についても、窓口により確認すべき内容が異なります。
協会けんぽの任意継続を希望する場合、退職日の翌日から20日以内に申し出る必要があります。
参考:【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について|全国健康保険協会(協会けんぽ)
任意継続の期間は2年ですが、保険料の未納などで資格を失う場合もあります。
退職後の手続きは期限が短いため、早めの確認が重要です。
傷病手当金と退職に関するよくある勘違い
退職して国民健康保険に加入したら、傷病手当金はもらえなくなりますか?
いいえ、退職前に要件を満たしていれば、引き続き受け取れることがあります。退職日までに続けて1年以上被保険者であった場合などが対象です。
ただし、資格喪失日の前日に、現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態である必要があります。
退職後に任意継続を選んだ場合、新たに病気になっても傷病手当金は出ますか?
いいえ、任意継続被保険者には傷病手当金は支給されません。任意継続中に新しく発生した病気やけがに対して、傷病手当金を受け取ることはできません。
傷病手当金の日額は、直近の給料の3分の2ですか?
計算方法は異なります。支給開始日前12か月の標準報酬月額の平均を30で割った額に、3分の2を掛けた金額が1日当たりの支給額となります。
ただし、被保険者期間が12か月未満の場合は、所定の全被保険者平均額との低い方で計算します。
有給休暇の残日数は、退職後でも請求できますか?
いいえ、退職すると年次有給休暇の権利が消滅するため、退職後は請求できません。年次有給休暇の請求権は、付与日から2年で時効となります。
未使用分は翌年度へ繰り越せますが、退職時に残っている場合は、権利が消滅する前に消化を検討しましょう。
まとめ
退職に向けた準備において、確認すべき点は以下の通りです。
- 有給休暇の残日数を把握し、付与日から2年で時効となる権利の消滅を防ぐ
- 傷病手当金の待期期間や、標準報酬日額の3分の2という支給額の仕組みを整理する
- 退職後の健康保険の選択肢にかかわらず、傷病手当金の継続給付は退職時の要件で決まることを理解する
- 資格喪失後の継続給付の要件を満たす場合は、退職後も給付が続く可能性がある
特に、退職後の健康保険については注意が必要です。任意継続被保険者には傷病手当金は支給されません。
ただし、退職日までに続けて1年以上被保険者期間があり、資格喪失時に受給できる状態であれば、継続給付を受けられる場合があります。
また、有給休暇の消化についても、出勤率8割以上などの付与条件や、時効による消滅を考慮した計画的な活用が求められます。
ご自身の状況に合わせた傷病手当金の活用や、有給休暇の消化について、事前の確認が要ります。
手続きの前に、加入している保険者などの公式な最新情報を確かめてください。
この記事の根拠(本文内54か所・台帳16項目・一次資料10件)
制度の数値(台帳から出しています)
- 通常の労働者に対する1回の法定付与日数の上限20労働日時点:2026-04-01確認:2026-08-18厚生労働省|年次有給休暇をとる条件は?
- 使用者の時季指定義務の対象となる法定付与日数10労働日時点:2026-04-01確認:2026-08-18厚生労働省|年次有給休暇の時季指定(労働者向け)
- 使用者が1年以内に確実に取得させる必要がある年次有給休暇の日数5労働日時点:2026-04-01確認:2026-08-18厚生労働省|年次有給休暇の時季指定(労働者向け)
- 資格喪失後の継続給付に必要な被保険者期間(退職日までに続けて)1年時点:2026-07確認:2026-07-27全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|資格喪失後の継続給付について
- 傷病手当金の支給期間(通算)1年6か月時点:2026-07確認:2026-07-26全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 傷病手当金の支給割合(標準報酬日額に対する割合)3分の2時点:2026-07確認:2026-07-26全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 傷病手当金の待期期間(連続して休む必要がある日数)3日時点:2026-07確認:2026-07-26全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 任意継続の申出期限(退職日の翌日から)20日以内時点:2026-08確認:2026-08-14全国健康保険協会(協会けんぽ)|任意継続被保険者制度
- 年次有給休暇が最初に付与されるまでの継続勤務期間6か月時点:2026-04-01確認:2026-08-18厚生労働省|年次有給休暇とはどのような制度ですか
- 傷病手当金の計算に使う標準報酬月額の平均額(被保険者期間が12か月未満の場合の上限)320,000円時点:2026-07確認:2026-07-26全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
- 通常の労働者に最初に付与される年次有給休暇の日数10労働日時点:2026-04-01確認:2026-08-18厚生労働省|年次有給休暇とはどのような制度ですか
- 年次有給休暇の請求権の時効2年時点:2026-04-01確認:2026-08-18厚生労働省|年次有給休暇権の時効は?
- 任意継続被保険者の標準報酬月額の上限(協会けんぽ・令和8年度)320,000円時点:令和8年度確認:2026-07-27全国健康保険協会(協会けんぽ)|【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について
- 年次有給休暇が付与される出勤率の下限80%時点:2026-04-01確認:2026-08-18厚生労働省|年次有給休暇をとる条件は?
- 自己都合の給付制限(原則)1か月時点:令和8年8月1日確認:2026-08-10厚生労働省|令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます
- 任意継続被保険者でいられる期間2年時点:2026-07確認:2026-07-27全国健康保険協会(協会けんぽ)|任意継続(任意継続の被保険者期間・保険料・保険給付)
一次資料
- 厚生労働省|年次有給休暇をとる条件は?
- 厚生労働省|年次有給休暇の時季指定(労働者向け)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|資格喪失後の継続給付について
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|任意継続被保険者制度
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について
- 厚生労働省|年次有給休暇とはどのような制度ですか
- 厚生労働省|年次有給休暇権の時効は?
- 厚生労働省|雇用保険の具体的な手続き
- 厚生労働省|令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|任意継続(任意継続の被保険者期間・保険料・保険給付)
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